微生物のちょっとした物語

ちょっとした物語を

僕は土の中にいる細菌と呼ばれる微生物だ。
微というからには小さい。
それもとても小さい。
どれくらい小さいかというと、髪の毛の太さの10~100分の1の大きさだ。
それでも生物だから、栄養となるものを食べて、
お恥ずかしい話だが排泄のようなことも行う。
生きているので、体も大きくなる。
ある程度大きくなると、分裂して仲間が増えるんだ。
増え方は、その場の状況によるけど、かなり増えるときは増える。

なぜ増えるのかと聞かれたら、そういう衝動があるからだ、としか言いようがない。
僕たちにとっていい状況が整っていたら、増えない方が失礼というもんだ。

そんな僕たちも生きている以上、生きていくことに必死だ。
なるべくいい場所に居れるように、ある程度は動くこともできるし、
集まって連携をとったりもする。
連携は大変だ。コミュニケーションが必要だからだ。
さっきまで僕という1つの細菌だったのにね。

いったん分裂するとどんな動きしてるのか全く分からない。
コミュニケーションを取らないことにはどうにもならないので、
手間なんだけど、今日も僕の分身と逐一やり取りをして集まっているんだ。

集まってしばらくすると、
だいたいいつも同じ会話が行われるんだ。こんな会話。
「あれ?食べられそうなものが無くなってきたぞ。そっちは食べ物はあるかい?」
「こっちも無くなってきたかも。どうしよう・・・」
と、こんな感じだ。

だいたい同じことの繰り返しのような気もするんだけど、
増えたい衝動が強すぎて、結構な勢いで食べ物が無くなっていく。
分裂って単純に考えて2倍になるから、そのまた倍、倍、
となっていくと結構な数になるんですよ。

普段、僕たちはいろんなものを食べているんだけど。
僕たちには神様から授かった神秘の力、
「酵素分解」なる技があって、これのおかげで
僕たちより大きいものでも細かく分解してから食べるんだ。

僕の分身だから、増えたい衝動もみんな強いからなぁ。
でも生きているからには、食べないって選択肢はないんだよな。
で、今日も生きるために食べるのです。

そんな忙しくも充実した毎日を送っていたんだけど、
今日は様子が違ったんだ。

いつもは食べ物が無くなると移動してなんとかしてきたんだけど、
今日はどんなに手分けしても、僕たちなりに結構な距離を移動しても、
食べ物がない。どうにもこうにも食べ物がない。
あるのは、プラスチックと呼ばれている固い物質だけだ。
こいつはどうにもこうにも食べられない。
どんだけ酵素を吐き出しても、うんともすんとも言わない。

さて困った。
飛び交う会話のほとんどは焦りと困惑だ。

そうこうしているうちに、エネルギー切れを起こす仲間も出だした。
もうこれは本当にまずい。

僕たちの移動距離はたかが知れているから、
ここいらの食べ物を食べ尽くしたら、後に待つのは全滅という恐ろしい結果だ。

残る希望は、1つだけ。
なぜか僕たちには、いつもは役に立たないが、
ここぞというときに大逆転を生む(生まない時もあるが)秘策がある。

・・・「突然変異」というやつだ。

僕たちはよく分裂して、仲間を増やすんだけど、
その時に凄く少ない割合だけど、
ちょっと分身というか、別人というか、なんかちょっと違う仲間が生まれたりするんだ。
たいていはなんかよくわからないまま、増えたり減ったりして、
気付いたらいなくなっているような感じなんだけど、
ごくたまに、僕たちのほとんどがピンチなのに、
そのなんかちょっと違う仲間が猛烈に増えたりすることがあるんだ。

そういう場合は、元々の仲間は減っていって、世代交代っていうのか、
ぱっと見て、入れ替わっていって、生き延びていくような。
もちろん、入れ替わっているようで、僕は僕なので、
感覚はずっと変わらない。食べ物探して、できるだけ増えたいと思っている。

話が飛んじゃったけど、今日もそんなピンチを迎えているってこと。
そして、今回もなんかちょっと違うことが突破口になればいいのに、と思っている。
僕がそんなことを思っているってことは、僕の分身なので、
みんなそう思っているってことなので、なんとなくだけど、
ちょっと違う仲間が生まれる分裂が増えてきているような気がする。

それと同時に、全体的には数が減ってきている気もする。
間に合うだろうか。間に合うといいなぁ。
次々と生まれる新たな仲間も、結構おろおろしている感じもする。
生まれたばかりでこんなに期待されても、確かに困るだろうし。

そもそも、謎の鍵穴に合う鍵を、合わなかった1つの鍵から、
ちょっとずつ作り変えて、鍵が開くまで延々と繰り返すような作業だ。
しかも、タイムリミットもある。

ほんとに、なんでこんなに生きたいのか分からないし、
今まで食べられなかったものが食べられるようになると、
どこかで思っているのも不思議だ。
こういうのを内なる衝動というのかなぁ。

内なる衝動は言っている、「」と。
とはいってもプラスチック、どこから食べたらいいのやら。
でも、もう周りにはプラスチックしかないから、この際仕方ない。
もうプラスチックの気分になってみるしかない。
プラスチックはどうされたいんだろう?
・・・。何か言っているような気もするし、気のせいかもしれない。
僕たちに内なる衝動があるように、プラスチックにもあるんだろうか。
僕たちみたいに動いていないけど、もしあるとしたら、
こういうんじゃなかろうか。「土に還りたい」って。
これは僕たちに都合のいい幻聴なのかもしれないけど、
そう思えてきたら、俄然やる気になってきた。
僕たちが食べずして、誰が食べるというのか。

さて、この延々なる分裂からの変異チャレンジに夢中(必死)になって
いたら、どこからかざわつきが聞こえてくる。
感覚的には、「ブラボー」的なやつだ。
ひょっとして、救世主現るってやつか。とうとう現れたみたいだ。
僕たちの突破口、このプラスチックしかない状況でプラスチックを食べれる救世主。
なんか数も盛り返してきたようだ。
さて、そろそろ僕の役目も終わりそうだけど、
僕は僕たちとして、これからも生きていけそうだ。

本当にありがたいもんだね。困ったときの突然変異。

けれど時々ふと思うんだ。
これは本当に偶然なんだろうか、って。
感覚的には、きっとランダムなんだろうって。

でも、こういうときは決まってピンチのときだ。
いわゆる神頼みって言葉があるくらい、何かの働きかけがあっても
不思議ではないかもしれない。

しかも、今まで全く食べ物とすら思わなかったプラスチックを食べれるようになるなんて。
この物質を何とかすると、まわりまわっていいことに繋がっているような気がする。
もちろんこの物質だって、地球の一部が変化したものだろうし、
大きな目で見たら、全部地球でできているのかもしれないけど。

・・・そんなこんなで、
僕たちの一部はプラスチックと呼ばれるものを食べることに成功したんだ。

そして、なぜかここ最近でまた一段とそんな変化が起きた仲間たちが増えているらしい。
遠く離れた土地で、きっと逢うことはないだろうけど、なかなかに心強いね。

僕たちは何となく循環の輪の中にいるような感じがするんだけど、
たまに循環の輪から外れそうなものもあるらしい。
その度に、きっと今までもこんなことが起きて、循環の輪に戻って、
なんかほっとしたり、安らいだりするのかもしれない。戻るべきところに戻るような。

さて、大きな目で語っている僕もいるが、
同時に今日も食べないと生きていけない僕もいる。
今日も食べ物にありつけるかどうか、探しに出かけるとするか。

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